【お母さん熊】
『ジョーン、おやつができたわよー。
かえってきなさーい。』
お母さん熊が、子供たちを呼びます。
【子熊】
『ハーイ。みんな行こう。』
子熊のジョンは子ギツネのトーマスと、子リスのビルに声をかけます。
夏が始まったばかりのド−ド−山は、子供の葉っぱがいっぱいであっちも、こっちも輝いています。
「ガチャッ」
山を渡る風の音と子供たちの話声に鈍い音が突然割り込んできました。
【子ギツネ】
『痛いよー 痛いよー』
ジョンとビルは驚いて、息がとまりました。
トーマスの右脚に尖った牙がいくつもならんでいる口が噛み付いています。
口には唇も身体もありません。
きっと、噛み付くためだけに生まれてきたんです。
異変を感じた、お母さんが来てくれました。
【お母さん熊】
『どうしたの?もーだいじょぶよ。』
お母さん熊はトーマスの脚に噛み付いている「口だけ」の上と下を掴んで、無理矢理開けました。
トーマスの脚はサケの小骨のように、歯の隙間に挟まっていました。
ジョンはトーマスの脚を隙間からはずします。
脚には挟まれた痕が着いているけど、ひどい怪我ではありません。
でも少しずれていたり、「口だけ」の歯並びが良かったらトーマスの脚は食いちぎられていたでしょう。
【お母さん熊】
『人間は本当にひどいことをするねー。この臭いを覚えて、近付かないようにしなさい。』
【子リス】
『うちの、うちのお母さんも、人間の臭いを感じたらすぐに逃げなさいって言うよ。ふーっ。』
興奮してた子リスのビルは胸のドキドキがすこし治まりました。
ジョンは動かなくなった「口だけ」の臭いをよく嗅ぎました。
「口だけ」は閉じたまま鎖に繋がれて動きません。死んだ様です。トーマスはお母さん熊におんぶをされて恥ずかしそうにべそをかいてます。
【お母さん熊】
『おやつはハチミツたっぷりのドングリパンケーキよ。みんなで食べようね。』
【子熊・子リス・子キツネ】
『ワーイ。』
お母さんの一言で、森の仲良し三人組に元気が戻りました。
ジョンの家のテーブルにはちょっと冷めてしまった、ハチミツたっぷりのドングリパンケーキとミルクが並んでいました。
【子熊・子リス・子キツネ】
『いっただきまーす。』
ドングリを潰して粉にして、焼いたパンケーキはお母さんの得意なおやつです。
「コンコン!」
【お母さん熊】
『ハーイ。』
ノックをしたのは郵便屋さんでした。
郵便屋さんは一通の封筒をお母さんに渡しました。
【お母さん熊】
『ジョン。白熊マーティンから手紙が来たわよ。』
お母さんはジョンに封筒を渡します。
【子熊】
『ありがとう。ジョンはみんなの前で封筒を開けました。』
【子熊】
『北に住んでいる親戚なんだ。』
封筒の中には手紙と一枚の写真が入っていました。
<白熊の手紙
大好きなジョン。元気ですか?
北極の今年の夏はとても暑くて大変です。でも、お母さんが旅行に連れて行ってくれました。
そのときの写真を一緒に送ります。
追伸
僕が背中に背負っているのは、去年のクリスマスにサンタクロースさんから貰ったバック・パックです。とっても便利です。ジョンもお願いしたらいいよ。
北極のマーティンより>
【子熊】
『バック・パックっていいなー。でもお母さん、クリスマスのサンタクロースさんて誰?』
【お母さん熊】
『うーん。誰かしら?。
そんな親戚、家にいたかしら?』
【子ギツネ】
『僕知ってるよ。』
【子リス】
『僕も知ってる。』
【子ギツネ】
『十二月の二十五日がクリスマスで、その日の朝に、食べ物を届けてくれるのがサンタクロースさんだよ。』
【子リス】
『違うよ。元気な赤ちゃんを届けてくれるのが、サンタクロースさんだよ。』
お母さんは子供たちの会話を聞いていて、昔聞いたサンタクロースさんの話を思い出しました。冬眠中のことなのですっかり忘れていたのです。
【お母さん熊】
『思い出したわ、ジョン。
サンタクロースさんはどこかの島に住んでいて、良い子の願い事をクリスマスの朝にかなえてくれるって。』
【子熊】
『本当?でもどうしたらいいんだろう。』
【子ギツネ】
『手紙をだせばいいんだよ。』
【子リス】
『だそうだそう。手紙をだそう。』
子供たちはサンタクロースさんに手紙を出す事にしました。
ジョンに誘われてお母さんも手紙を書くことにしました。
<ジョンの手紙>
サンタクロースさん、初めまして。
僕は子熊のジョンです。
クリスマスの日に僕とお母さんは冬眠しているので、サンタクロースさんのことは知りませんでした。
ごめんなさい。
お母さんも友達も、みんなの山も大切にします。
良い子にしますから、いとこのマーティンと同じバック・パックをください。
色は大好きな森の色と同じ緑にしてください。
あともう一つお願いがあります。
いいえ、このお願いが一番です。
お父さんがどこかで生きていて、帰ってきてくれる事をお願いします。お父さんは山を護るために人間に鉄砲で撃たれて、川に流されてしまいました。
お父さんにもう一度会わせて下さい。
もし会えたらもうずーとプレゼントはいりません。
【子熊のジョンより】
<トーマスの手紙>
サンタクロースさん、いつも食べ物をあり がとうございます。
僕は子ギツネのトーマスです。
雪が降ると食べ物が少なくなるので、クリスマスとサンタクロースさんは大好きです。
でも今年は、お腹がすくのは我慢しますから、僕にもバック・パックをください。
いつもはお母さんが僕の代わりに手紙を書いてくれましたが、今年は僕が書きました。
いつもより良い子にしますのでお願いします。
追伸
できましたらいつものお母さんの願いも聞いてあげてください。雪の中、お母さんが食べ物を探しに行ってなかなか帰ってこないと心配になります。
【子ギツネのトーマスより】
<ビルの手紙>
サンタクロースさん、元気な兄弟をたくさんありがとうございます。
たまには喧嘩もするけど、みんなで仲良くしています。
お父さんとお母さんのお手伝いをもっとしますから、今年は赤いバック・パックをください。
弟や、妹にバック・パックいっぱいにクルミやドングリを持って帰れるようになります。
【子リスのビルより】
<お母さん熊の手紙>
サンタクロースさん、初めまして。
ドードー山のヘレンとジョンと言う熊の親子です。
冬は冬眠していますので、初めて手紙を書きました。
いきなりで厚かましいのですが、お願いが二つあります。よろしかったらかなえて下さい。
一つは、子供たちのお願いを是非かなえてあげてあげて欲しいことです。ドードー山の子供たちはみんな良い子です。この子たちの夢をお願いします。
もう一つは、私たち動物からのお願いです。
きょう、子ギツネのトーマスが人間の仕掛けた罠に掛かってしまいました。
山の木を切り取る人間もでてきました。
どうか去年までのように、静かに暮らせるようにして下さい。お願いします。
ドードー山のヘレンとジョンより
ジョンはサンタクロースさんが道に迷わないように、地図も書きました。地図にはトーマスの家と、ビルの家と、ジョンの家。
そして、目印の3本の樅の木も描き入れました。
お母さんは、みんなの手紙と地図、そして思いを封筒に入れます。
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